安全関係記事

プレス現場の災害防止 第1回」
両手操作式安全装置の盲点プレス作業の安全対策 

(株)小森安全機研究所 山田輝夫 (山田労働安全コンサルタント事務所 代表) 
 
 
プレス災害の死傷者数の減少がここ数年見ら’れるが、災害推移表(表1)より、指の切断被
災者数は増加傾向にある。また、今年は昨年より死傷者数が増加するのでは、との声が関係者から聞こえ、危惧されるところである。プレス機械の構造規格等が昭和53年に告示され、プレス機械の災害防止のためにさまざまな安全啓蒙活動が行われてきたが、近年プレス災害の減少率は鈍化傾向にあり、有効な手段がないまま現在に至り、国際安全規格の導入も相まって、さまざまな方面から見直しがなされ、ようやくプレス機械等の構造規格の見直しもされようとしている。

 そこで、筆者が在籍した30年商あまりのプレス業界での安全活動を通じて、経験した災害
事例を基に、プレス機械の環境を取り巻く安全を再度検証し、なぜ起きてしまったのか、再発させないためにはどうすればよいか、など今後の安全啓蒙活動の参考としていただきたい。

1.両手押しボタン作業での災害

  一般的に。安全衛生規則131条に基づき、安全プレスが製造。販売され、工場で使用され災害など起きるはずがないのだが、思わぬところから災害が起きてしまっていた。製造販売段階ではプレス機械の構造規格を満足し、何の問題もない両手操作式安全プレスであり、これには光線式の安全装置がついていない。その代わり、両手で寸動、安全一工程のプレス作業しかできないようになっており、フートスイッチは使用できない。通常、この両手操作式の安全プレスでは、押しボタンを親指で押しながら、安全一工程で作業し安全であるはずである。しかしながら、被災者は親指での作業が疲れるとのことで。両手押しボタンの上にウレタンゴムをはさみ、手の平で押しボタンを押し作業していたある日、右腕切断という大きな災害に巻き込まれてしまった。原囚は押しボタンには必ずガードリングが使用され、ボタンはガードリングの縁より。下がった位置にあり、親指などで押さない限り、プレスは動かないようになっているのだが、このガードリングを深く理解していなかったために起きてしまった災害といえる(写真1)。

 類似の災害として、小型プレス機械によく見かけるが、この押しボタンにゴムカバーをつけたものがある。そのゴムカバーの中にウレタンゴムのようなものをはさんでいるケースを見かけるがこれも、同様にガードリングがなぜあるのか理解がされていないために、現場の作業者がいとも簡単に、犯してしまうミスである。
 

2.ガードリングの必要性

  ガードリングは誤って押さないようにするために取付られ、フェールセーフの考えに基づいている。では。これがないことを想定してみると、体のー一部が触れただけで、押しボタンを押した状態になってしまう。たとえば、金型の奥に異常があり、手前から身を乗り出して覗きこもうとすれば。体の一部が押しボタンに触れ押してしまう。ひいてはスライドが動き、被災してしまうのである。そのため、構造規格は「ボタンケ-スに収納されており、かつ、当該ボタンケースの表面から突出していないものであること」と規定されているのである。上述の両手操作式安全プレスによる災害はこのような初歩的なミスによるものである。
 

3.まとめ

 残念ながら、このようなヶ一スをプレスエ場現場で多く見かけるが、これを見過ごしてしまうプレス作業主任者にも安全管理上の問題はあるように思える。日常の点検は作業者自身が行うが、作業主任者はその結果報告を見るだけではなく、自らが、月齢点検としてプレス機械の安全を絶えず見守らねばならない。また、安全教育を通じて、話しておかなければならない重要なことである。次に関係するプレス機械の構造規格を書き添える。この押しボタンのガードリングについては、操作スイッチの機能をもち合わせている機械には。安全を一層高めることになるので、広く採用されることが待たれる。
 

プレス機械構造規格

(スライド作動の押しポタン)
第四十五条 両手操作式の安全プレスのスライドを作動させるための押しボタンは。次の各
号のいずれかに適合するものでなければならない。
一、両手操作式の安全プレスの本体に内職されており、かつ、当該安全プレスの表面から突き出していないものであること。
、ボタンケースに収納されており、かつ、当該ボタンケースの表面から突き出していないものであること。

プレス成型加工
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