「プレス現場の災害防止 第5回」
フート作業の安全性
(株)小森安全機研究所 山田輝夫 (山田労働安全コンサルタント事務所 代表)
フートスイッチの危険性 ヒューマンエラー PSDIの有効性 国際安全規格とは
塑性加工のなかでも、プレス加丁は切削加工に比べてその生産性ははるかに優れており、品質の高い、安価なものを大ほに生産できる。しかも、金型の創意工夫によっては、今まで実現不可能であった加工が可能となり、現在、塑性加工の研究、見直しが盛んに行われハイテク分野、切削加工分野のプレス加工への収り組みが行われている。しかし、一方、プレス加工は自動化することも可能であるが、手作業で行わなければならない作業もあり、自動、手動が混在する作業となってしまう。なかでも、生産性、作業性、コスト削減などから。フート作業を余儀なくされてしまうものも多い。そのうえ。安易な考えのもとに、作業が面倒である、自分は大丈夫であるという過信から、フートスイッチを使用して作業をしてしまうケ-スが考えられる。災害要因の上位になっているのに、なぜフートスイッチを使って作業が行われているのだろうか。今回は、フートスイッチを使用しての作業による危険性について考えてみる。
1.フートスイッチの危険性
本来、人間の足は歩行したり。体を支えたりする動作が基本となっている。手作業では簡単にできる掴む、離す、回す、押すなどの動作は、足ではできないと一般約にはいわわている。しかも、手作業におけるプレス作業を観察してみると、材料を掴んで金型に入れ、そして操作ボタンを押し加工後製品を取り出し、また材料を入れるということの繰り返し作業となるが、動作そのものを細かく観察すると、その過程では。かなりの複雑な判断をし、工程処理を瞬時にこなしているのである。たとえば。材料や製品を掴んだだけで、形の変歡 バリ、重さ、置く方向、きずの状態などを判断しており、押しボタンの動作に至っては、その力加減などを瞬時に判断している。このように、人はプレス加工の1サイクルの間に、無意識のなかでかなりの判断処理を行っている。人の行動にはミスが付きまとうが手作業だけでもこれだけ複雑な作業をしているのに、最も重要な動作である。
プレス機械の起動をフート作業に任せてしまうことは、ヒューマンエラーを考えると非常に
危険である。そのひとつである「注意力」を取り上げてみると、これには限界があり、継続性、方向性、選択性、一点集中性の四つ特性があるといわれている。なかでも継続性に至っては、注意力がノコギリの刃のようになり、注意、不注意が意識のないところで交互に起きてしまうといわれている。また。選択性は、情報収集能力は高いのであるが、残念ながら、処理能力は一つしかもち合わせていないのである。最近、車の運転中の携帯電話使用禁止もこのようなことからいわわているのである。作業者、管理者の人たちは、フート作業での異常処理をとっさの判断でしなければならない場合、その注意力には限界があることを十分理解しておく必要がある。
2.作業性と安全性
フート作業と両手作業では確かに、生産性、作業性において大きな開きがある。しかし、安
全性を考えると比較にならないほど、フート作業には危険が伴う。両手作業は一般的に両手操作式安全装置を取付けて行われるのに対して、フート操作における安全確保はむずかしい要因がある。フリクションプレスなどは、光線式安全装置がその代用をしているものの、その光線式安全装置に起因しているものが災害要因の上位を占めているため、安全確保をむずかしくしていることも事実である。 一般的に災害を起こさないためには。金型内に手が入っているときにスライドが作動しなければよい。両手操作であれば、金型内に手があるとき、スライド作動することは考えられない。必ず、両手で押しボタンを押さなければならないからである。しかしながらフート作業では金型内に手があっても、フートスイッチを押してしまえば、スライドが下降してしまい被災に直面する危険性は十分考えられる。まして、安全装置の不備、取付位置の不備など、またフートスイッチが移助可能であり、場合によ
ってはプレスの後飢 ホルスターの左右からも金型内に手が入ってしまうため、災害を伴う危険性が高いのである。それに加えて、両手操作盤はかなり丈夫な操作箱になっているのに対して多くのフートスイッチはコードとリミットスイッチの簡単な構成で、カバーの覆いがされいるものがほとんどである。したがって、コードが傷んでいたり、コードの接続部の不具合をよく見受ける。使川前の点検、安令確保にも問題がある。厚生労働省のプレス機械作業における総合防止対策にも掲げられているが、できるものであれば、フート作業は全廃したいものである。
3. PSDIの有効性
PSDI (制御機能付き光線式安全装置)は、フート作業での安全性、両手操作の作業性を考慮したものである。この制御機能は、手などで光線を遮ったときに自動的にスライドを停止させ、光線を遮らなくなったときに自動的にスライドを起動させることができる。もちろん自動的にといっても無条件ではなく、色々な起動条件がそろって初めて起動できるようになっている。このPSDIシステムは、プレス作業者が両手起動ボタンを押す必要がないので、疲労の軽減や生産性の向上が実現できる。ちなみに、一般的に5時間の稼動時間中に、作業者がボタンを抑す回数は1時間200回として1日1000回で、1回両手ボタンを押すのに約3.2 kgの力が必要であり、1日に1000回押すと何と計4トンの力が必要とされるといわれている。しかも、この安全装置は国際安全規格の要件をすべて満たしており、プレス加工におけるハンド・イン・ダイ作業に、有効なもののひとつといえる。
4.国際安全規格とは
り込まれている。まず。従来の光線式安全装置は、一般的に光軸を遮り、危険を感知して停止させる危険確認型といわれている。しかし、このPSDI装置は、投受光式の安全確認型を採用していて、光線上に何もないことを確認し、動作可能としているため、安全性は反射式に比べて高いといえる。そのほか、光線式の光軸ピッチも日本の規格では。50 mm 以下のピッチとなっているが、国際安全規格では光軸ピッチによって安全距離の算出の仕方が異なっている。 その一例をみてみると、センサーの検出能力に応じて追加の安全距離が必要となる。
計算式は「S =1.6×(Tl十Ts)十c(単位mm)亅「Tl:手が光線を遮断したときから急停止機構
が作動を開始する時までの時間」「Ts:急停止機構が作動を開始したときからスライドが停止する時までの時間」
〈参考資料〉
「制御機能付き光線式安全装置に対するプレス機械又はジャーの安全装置構造規格及び動力プレス機械構造規格の適用の特例について」平成10年3月26日其発第130号
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